攻殻機動隊 マニア考 -THE GHOST IN THE SHELL, 11 GHOST COAST-

バトーの運転する車に乗った脳殻だけの草薙素子は,バトーに尾行が付いていないか,逃走車を替えろなどと要求する.これは,この作戦に対して草薙素子が慎重になっているのか,普段もそのような指示を出しているのかはわからない.

バトーはベッドに到着し,緊急用の義体を取り出すが,アルミ合金にカビが生え,シリコン,およびアクリルファイバーも腐ってしまっていた....闇ルートで入手できる部品はコーティングの耐菌テスト等は十分でないらしい(9課で入手できるものはそのようなことのない高級品だったようだ).

バトーはどこかから義体を盗んでくるために,草薙素子を置いて外に出て行く.その際に,バトーがもし戻らなかったケースに備えて,草薙素子の脳殻をわかりやすい場合に置いた.これはバトーが戻らずに生命維持装置のバッテリーが上がってしまったら困るからだという(草薙素子は死ぬだけだから別に困らないと答えているが).

バトーが出て行く時に,草薙素子は節電のために自閉症モードに切り替わる.その後,何者かがインタラプト(実行されている処理を中断して,より優先される別の処理を行うこと)してくる.それは人形使いだった.草薙素子人形使いは消滅したはずだと言い,これは自分の記憶の混乱,もしくは記憶の誤合成なのかと問いかける.その問いに対して人形使いは,

- 君達つまり物質宇宙は沈殿物の様な部分でしかない...(量子的に観れば不確実な存在だし)

- そうでなければ意味や無記録情報などと言ったものは存在しない事になってしまう

と答える.そして,人形使い草薙素子に頼み事をする.それは,融合であった.この頼み事の際のやりとりは,非常に難解であり,読み終えた段階でもよくわからないというのが正直なところだった.そのやりとりを記す(以下,PO(pupet operator): 人形使い,MK(Motoko Kusanagi): 草薙素子).


PO: あるネットが破局を避け安定した平衡状態を保つ為にはどうする?

MK: 二つの方法があるわ

    一つは二種のコピーを取る事

    一方・一種が何らかの要因で滅んだとしても他方が存在するわ

    もう一つは自己内部を細分化し様々なタイプの破局に対応できる様に多様化する事

生物が多機能単細胞から多機能単細胞から多機能多細胞化した様にね...

PO: コピーが更にコピーを生み増えれば増える程破局の可能性は低くなる...

    やがてパラレルな多量宇宙像を作る...

SGUTからボゾンとフェミオン......重力や強い相互作用などが次々分かれ 部品は陽子を 原子核は原子をつくり

生物 固体における細胞や組織...生態系における多様な種...

我々の知る宇宙は2^n!の内の一ツで2^m!種の要素の組合せで構成されている....

nやmの値は無限に続く様にも見えるが判らない...

宇宙の爆発的連鎖誕生とも関連がある様だが

我々を含むこの宇宙1ツに話を限定しよう

これは君を中心に考えた構造のピラミッド

系統の近い同じ9課の部員や友人 上司には君の情報が極めて部分的ではあるが残される...

遺伝子や模倣子は君が消えた跡も成長を続ける...

ドーナツ状にね

上へ行く程レベルは巨視化し決定論的にふるまう...

逆に下は微細構造に行く程非決定論的になる...(個人というレベルはまだ非決定論的)

言い換えれば 下の階層のゆらぎが上の階層の動脈硬化を防いでいるわけだ...

システムの硬化...熱的死は 一見 安定の概念に近い様だが 「変化に乏しく一様でゆらがないシステム」は破局の可能性が増大し真には不安定といえる

ネットワークは 超宇宙サイズで 無限の深さを持ち... 成長する樹の様だ... 

MK: 生命は枝の先になる 果実ってところね

PO: そうだな 

    果実だ...

カバラの奥義 北欧神話 中国神話 エデンの知恵の木 生命樹 世界樹... この場合は天御柱という名が適している

時代 文化 人種を問わず多くのチャネラーがアクセスし 語りついできた宇宙のシステムだよ

幹の先はもう存在しない筈だが 枝野先へ来る程 生長を続けている

ふれたり はなれたり からまりあって 実をつけたり...

宇宙は回転し そのモーメントに当たる「時間」に従って進行している...

より存在する為 より安定を求め...複雑多様化しつつ 時にはそれを捨てる...

脳のネットが複雑化しつつ忘れる機能を持ち

脳以外の細胞が毎日代謝し 生まれ変わりつつ老化するのも

死ぬ時に大量の 経験情報を消し去って 遺伝子と模倣子だけを残すもの

周期的に文明が疲弊するのも

皆システムの硬化...破局に対する防御機能だ......

MK: 人間の愚行や誤ちを肯定する考え方だわ

PO: 君が「善悪」について語るとは... その様な細部は本題ではないが 宗教的に言うと 神が悪魔を一掃しない理由がここにある 宗教モードの者は試練だとか修業という言葉でリスクを肯定している

    もし細胞が増え続けたら? 人が死なずに知識や経験を積み続けたら? いずれの場合も身動きできなくなって破局するだろう...

私の問題はそれだ

私は以前「自分は生命体だと言ったが 現状では未完成な水蛭子にすぎん... なぜなら私のシステムには老化や進化の為のゆらぎや自由度(あそび)が無く 破局に対し抵抗力を持たないからだ...

コピーをとって増えた所で「1種のウィルスで例外なく全滅する」可能性を持つ......

コピーでは個性や多様性が生じないのだ......

MK: 自慢の演算処理力でコピーに味つけすればいい

PO: 多少の違いは造れるが すぐにコピー同士が出会い 融合して 欠損が補充されてしまう......

生命体と情報集積体の区別が消失するのだ......つまるところ私は 人間の部分でしかないのかもしれない...

MK: あんたまるでガン細胞ね 知能ってのはガンなのか...

PO: 本質的にはその比喩は間違っているが...条件さえ整えば 際限なく増大する点とコピーしかとれん点で一致しているな

    さて 以上の点を踏まえたのみというのは外でもない 多様性やゆらぎを持つ為 君と融合したいのだ

MK: はあ!?

    私に多重人格にならないかって!? 冗談じゃないお断りよ バカ

PO: 多重ではなく完全な統一... 融合だ

    君も私も早退は多少変化するが失う部分はない... 共生よりも統一された概念だ...

融合後 違いを認識する事は不可能な筈だ

MK: ぞれじゃあ 私が死ぬ時 どうするの? 遺伝子は当然模倣子としても残れないわよ

PO: 融合後の 新しい君は 事あるごとに私の変種をネットに流すだろう... 人間が遺伝子を残す様にね...そして私も死を得るわけだ...

MK: なんだかそっちばっかりトクな様な気がするわ

PO: 私のネットや情報や機能をもう少し高く評価して貰いたいものだね

MK: ロボットの人類消去計画に手を貸す事にならないって保証ある? 私が私で入られる保証は?

PO: 前者の保証はない だが君と私からその様な低知能の変種が生じる確率は低く生じた場合 外の多数の私の子孫がこれを消去するだろう...

後者の保証は全くない 人は常に変化するものだし私もその機能を欲している

低知能ロボットの局所的反乱の可能性は否定できないが

「奴隷・差別などの歴史」や「擬人化」がもたらすロボットのイメージはあまり論理的ではないな

MK: もういいわ どうせ何を聞いた所で信頼できないんだし... 

    申し出(プロポーズ)を受けるわ... 私も何かを予感してたのよ 融合してみましょ! 

PO: 結論がOKなのは判っていたが 推定所要時間の25分の1で返事があるとは... 評価を改めねばならんね

MK: 融合の前に一つ質問があるわ... なぜ私を選んだの?

PO: エンがあったからだ

MK: エンですって!? ネット内に仏教事典でも持ってるの? 

PO: エンとは... たとえば君とソーマトオルを例にとると

MK: あら 懐かしい

PO: 「君の内にあるソーマ」と「ソーマの中にある君」とが まるで塩基列が対応する様に 対応する事をエンという... この場合RNA転写産物同様に殺意などが合成されて残っている様だ... 

MK: 知能だけの生命体と結婚しようってのに その理由が「縁があったから」とはね...

PO: これで私は真の生命体となる... 

    流れる雲の様に うつろう... 不確実で多様な世界の一部に


これらの会話の後に草薙素子人形使いは融合する.これらのやり取りはとても難しいので,機会を改めて考えてみたいと思う.
その後,バトーの入手してきた義体(男性型)に入った草薙素子はバトーに

    ある日突然生命体と名乗るAIと接触して融合を求められたら 受け入れてやって

と言う.これは人形使いの子どもとバトーの融合のことを指しているのだろうか.草薙素子はAIと融合した人間の第一号となるわけだが,同様にAIと融合する人間がどんどん増える事によって新たな人類(融合した生命体を人間と呼ぶのかどうかは別問題として)が産まれる事になる.この様なことを進化と呼ぶのだろうか.

そして草薙素子は融合する事によって

    これが宇宙の種子(コズミックシード)だってことや... 情報の高効率パッケージ... 生命の偉大さを知ることになると言う.
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