攻殻機動隊 マニア考 -THE GHOST IN THE SHELL, 01 PROLOGUE-

1991年から連載が始まった,士郎正宗攻殻機動隊は,今(2018年)読んでも興味深い.攻殻機動隊自体の存在は知っていたが,実際に手にして読んだのはごく最近だ.設定や登場するツールなども非常に凝っていて,読み返したり調べたりしながら読むことができるのは,マニアの心を擽るのだろう.そういう私もこの世界にとても魅了されつつある一人である.しかし,私が攻殻機動隊を読んだのは最近のことで,マニアではない.ただ,これから投稿するような読み方をしていけば,いつの間にかマニア化するのではないかという期待も込めて,記事のタイトルを「攻殻機動隊 マニア考」とした.そのようなわけで以降,何回かに分けて攻殻機動隊の感想と分析(もどき)などを投稿していきたいと思う.
攻殻機動隊には,原作のマンガに加えてアニメやハリウッドで映画化されたものがあるが,まずはオリジナルから順を追って進めていく.そんなわけで,先ずはオリジナルである攻殻機動隊(1)の01 PROLOGUEから始めたい.


最初のページには設定として,

-  企業のネットが星を覆い,電子や光が駆け巡っても
-  国家や民族が消えて無くなる程
-  情報化されていない近未来
-  アジアの一角に横たわる
-  奇妙な企業集合大国
-  日本...

と書かれている.
この状況は,今日(2018年)の世界にすでに当てはまっている.設定では,2029年,すなわち今から11年後の未来を想定して書かれたようだが,もうすでにそのような状態になっていると言える.

ロバート・カーンとヴィントン・サーフがインターネットにおけるデータ転送技術の基盤技術であるTCP/IPプロトコルを開発したのは1973年だ.作品が発表された1991年には,インターネットはまだまだ一般的とは言えず,果たして使い物になるのだろうかなどと思われていたのだろうと思う.また,実際に利用している少数の人々を除けば,インターネット,WEBという言葉だけが先走り,正直なところどのような使われ方をするものなのかもわからない人が多かったのではないだろうか.当時は,データはメディア(主にフロッピーディスクなど)を介して受け渡すというのが一般的で,端末から有線ネットワークを介して操作するとすれば,大学や企業の(その当時の)大規模計算ができる大型コンピュータにアクセスするといったことぐらいだったのだろうと想像する.また,有線での通信速度も今のように速くはなかったので,通信しているのか止まってしまっているのかわからないといった状況も多かったのではないかと思う.
ヴィントン・サーフが"全世界のあらゆる人々の利益のため、インターネットのオープンな開発/進歩/利用を保証する"目的でインターネット協会を設立したのは,作品が発表された翌年の1992年である.1991年はGoogleもなければAmazonもない,そんな時代なのだ.先進的な研究などの情報を収集していたとしても,現在のような未来を思い描いた士郎正宗の想像力は凄いと言わざるを得ない.

攻殻機動隊の設定の通り,ネットはほとんどの世界を覆い,無くてはならないインフラとなった.設定では「企業のネット」と書かれているが,「ネット」は誰のものでもなく,人類のものになったというのが私の感想である.また,「国家や民族が消えて無くなる程情報化されていない近未来」という文があるが,士郎宗方氏は,ネットはもちろんのこと,それに関連したソフトウェアやネット接続されたAI技術などが進歩すれば,国家や民族も消えてしまうと考えたのだろうか.

PROLOGUE 01の舞台は,海上都市ニューポートシティなので,海浜部の新たな埋立地が想定されたのかもしれない.90年代初期までは,日本国内でも大地震は少なく,国土の狭い日本において埋立を進めることは,廃棄物の処理,平坦地の拡大,新規の都市計画による利便性の高いエリア創出などとメリットが多いことだったのかもしれない.ただし,これらは2011年の東北地方太平洋沖地震による津波被害や,多発した埋立地液状化被害によって,デメリットも多々あることが一般的な事実となったため,今後,埋立地が拡大するのか,そこに新たな都市部が形成されるのかは不明である.ただ,海上都市と書いてあることから,埋立地などに直接的に立地している都市ではなく,海底を基礎とした,海の上に浮かんだ都市なのかもしれない.基礎部分が巨大地震津波に耐えられる構造であれば,国土が狭い日本ではそのような発展の仕方もあるのかもしれない.

そして,いよいよ髪は青く,ゴーグルをかけ,壁に這わせてあるケーブルと自信を接続して誰かと通信を行っている,もしくは情報を傍受している少佐こと,草薙素子が登場する.よく見ると,草薙素子がケーブルの接続に使っているのは,ワニ口クリップのように見える.昔から使われているワニ口クリップは2029年にも生き残っているのだろうか.近未来にはテクノロジーが発達して,何でも一新されたハイテク機材になると考えてしまうことが多いが,意外とそうでもないのかもしれない.

草薙素子は,「暗号変換AI任せだとネコにもネズミにも聞かれるわよ」と通信相手に言っているが,暗号化の際にプログラムによって行うこと意外にどのような手法が想定されているのかはわからない.汎用型のAIプログラムを使うと,暗号解読されてしまうという意味なのだろうか.

荒巻公安部長も登場する.この時点の草薙素子は荒巻部長の部下ではないことがわかる.これは,PROLOGUE 01の最後にわかることだが,草薙素子内閣府の直轄のグループで,公安とは別目的で潜入しているのだ.

部長は,公安の部隊に突入命令を出す際に
・防電磁シールドを切る
・無線オープン
という命令を出している.

これらはどういう意味なのだろうか.防電磁シールドは,電磁シールドによって通信が傍受されてしまうことを防ぐためのものかもしれない.無線通信の傍受を防ぐための防電磁シールドを張った状態から,突入時にはそれを切って,無線をオープンな(傍受されても構わない)状態で突入すると考えると意味が通じるように思う.このような小さな一コマのセリフにも細かな設定が考えられていて,楽しむことができる.

公安の部隊が突入した際に,部隊は相手方の発砲を受けるが,発砲し返さない.これは,日本の警察の特徴を表しているのだろうか.それとも,突入先で密談を行っている者を確保しなければならないために,発砲を控えるように指示を受けているのかもしれない.
また,公安部隊が極東通商代表部,商務省次官らを取り囲んだコマの士郎宗方氏のコメントに「このように(円状に)標的の周囲をとり囲むと発砲時に反対側の味方にも弾があたって危ない」と書かれている.全くその通りなのだが,このような取り囲み方をしてしまうのが日本の警察の特徴という皮肉を込めて描かれているのかどうかは,確かめようがない,この士郎宗方氏のコメントは所々出現し,何かと面白い.このコメントの右下にあるコメントには「ペルソナ・ノングラータで」とある.ペルソナ・ノングラータ(Persona non grata)は接受国からの要求に基づき、その国に駐在する外交使節団から離任する義務を負った外交官を指す外交用語である.ペルソナ・ノン・グラータの発動は,いつ何時でも一方的に可能であり,その理由を提示する義務はない.ペルソナ・ノングラータはラテン語で,元々の意味は「好ましからざる人物」だ.この場合は外交官免責特権を主張した極東通商代表部の人間に対して,日本(接受国)が,ペルソナ・ノングラーテを発動することによって,外交官の受け入れ拒否や外交官待遇の同意の取り消しを行うことができることを意味する.

部長と極東通商代表がやり合っていると,突然代表が破裂する.これは発砲によって割れた窓ガラスの外を光学迷彩を使用した草薙素子が下降しながら炸裂弾を打ち込んだことによる.そして,慌てた公安部隊は窓の外に向かって発砲する.公安部隊の発砲が描かれているのは,ここが初めてである.先の突入時には発砲しなかったにも関わらず,多量の薬莢が飛んでいるところをみると,先の発砲を控えるような命令が出ていたという想定が,もっともらしく思えてくる.せっかく無傷のターゲットを確保したもつかの間,そのターゲットを原形もとどめないまでに殺害され,発砲したのではないだろうか.

草薙素子はあっさりとターゲットを殺害して,熱光学迷彩をまとったまま降りていく.なお,草薙素子光学迷彩は2902熱光学迷彩を纏っているとされている.コメントによると,2902は2029年製光学迷彩方式の改造タイプとのこと.なお,「熱」と付いているのは,赤外線領域まで背景と同化することにより、暗視装置やサーモグラフィーなどにも感知させないという意味合いがあるそうだ.熱光学迷彩に関しては攻殻機動隊 REALIZE PROJECTサイト内の対談で,稲見昌彦 慶應義塾大学大学院教授が攻殻機動隊にヒントを得て光学迷彩を開発したと述べている箇所がある.稲見教授は攻殻機動隊のファンであり,ヒントを得たことを感謝していると言うだけではなく,論文の参考文献にも攻殻機動隊を記載しているという(

攻殻機動隊 REALIZE PROJECT » 「熱光学迷彩という言葉がなければ光学迷彩は実現できなかった」【特別対談】稲見昌彦×I.G 石川光久が攻殻機動隊を語る(3/4) ).

そして,事件の翌日草薙素子は前首相が発行した暗殺命令書を持って内務大臣のオフィスに座っていた.と言うことで,内務省(というか政権直属)の指示で動いていたことがわかる.また,サイボーグであることも明らかにされる.

 サイボーグとは,サイバネティック・オーガニズム(Cybernetic Organism)の略で,広義に生命体(organ)と自動制御系の技術(cybernetic)を融合させたものを指すしている.なので,電子機器を含んだ人工物(人工臓器など)を身体に埋め込み,身体の機能を代替させた時点で,サイボーグ化しているということになる.人間に限らず動物でも,主に事故等によって損傷した身体機能の補助や強化が行われる場合があるので,その時点でサイボーグ化されていることとなる.

この段階では,草薙素子がどの程度サイボーグ化されているのかはわからない.